世界で広がる、謎の手首の痛み。
昔は職業病だったのが、今は一般の人にまで。
原因は、フリックやスワイプなど、スマホの操作にあった。
(子育て中になることもあります)
宮森くんと亀井くんが体験、手首の個性とは?
腱鞘炎になりやすいタイプがあった。
カギは、腱が通る鞘のトンネル。
簡単なチェック法も、紹介します。
解説:東京女子医科大学 講師 酒井直隆。
2017年9月13日放送の「ガッテン」より、「新・現代病! 世界に広がる謎の痛み」からのメモ書きです。

□ 謎の手首の痛み

さあ、今回のテーマは何でしょうか?

「手首の痛み」です。
原因は、意外なものでした。
現代病と言っても、いいかもしれません。
2014年のデング熱。
ダニによる感染症、SFTS。
2017年には、ヒアリの問題が発生。
そして今、新たな脅威が!
なんと、世界で「謎の痛み」が広がりつつあるのだという。
アメリカでも、中国でも、ニュースになっています。
世界に広がる、謎の痛み。
その震源地は、アメリカでした。
2017年5月のニュースで、「工場などで働く人によく見られたある症状が、一般の人にまで広がっています」との報道。
手を使っていると、手首の周りが痛むのだという。
中国でも、ニュースになりました。
「手に痛みが出る人が、増えています」「10大生活習慣病の一つに、認定されました」と。
力が入らないし、動かしにくいという人も。
手が痛いと、手首を押さえています。
実はこれ、「腱鞘炎」「手首の炎症」だという。
この症状、もともとは、ピアニストや工場の労働者、料理人など、手を酷使する人の病気でした。
いわば、職業病。
でも、今は、ごく普通の人たちが手首を痛め、病院を訪れる人も少なくないのだ。
ある患者さんは、「動かすと電気が走るような」と話しました。
手首にとって 受難の時代、到来か!
昔は、手を酷使する人の職業病だった。
それがなぜ、一般の人まで?
[体験談(1)]
埼玉県にお住いの女性、Aさん。
2年前から、手首の痛みが続いています。
手首を動かしたり、グッと力を入れた時、親指から手首にかけて、ズキンズキンと痛むのだそう。
今では、ギュッと力を入れるのが怖いぐらいだという。
物を握ったり、手首をひねったりすると、とりわけ強い痛みが走るらしい。
Aさんが痛めたのは、利き手である右手。
家事をするにも、不便の連続です。
痛む右手をかばって、左手を使う生活が、続きました。
洗濯ものをたたむのも、一苦労。
痛みがひどいと、箸すら、左手で使わざるを得ません。
この手首の痛み、原因はいったい、何なのでしょうか?
ぶつけた記憶もありません。
思い当たることといえば、孫を抱っこしたり、スマートフォンを使ったり、アイドルのコンサートでサイリュウムやライトを振るくらい。
[体験談(2)]
埼玉県にお住いの男性、Bさん。
2年前から両手首が痛み、今もテーピングが欠かせません。
動かすと痛くて、ビーンと響く。
特に、手首を前の方に伸ばすと、腕の方にまで、広く痛みが走ります。
日々の生活でも、苦労の連続。
ジョッキの持ち方にも、工夫がいります。
40年来の趣味だった大型バイクですが、手首が痛むので、最近はすっかりご無沙汰。
病院を受診すると、手首に炎症が起きていると診断されました。
でも、Bさんも、原因に心当たりはないという。
強いて挙げるとするなら、仕事で使うパソコンや、奥さんの花屋を手伝って、花を持ち上げることぐらいです。
さて、痛みの原因は、何なのでしょうか?
ゲストのみなさんにも、手首を痛めた経験が。
ずんの飯尾和樹さんは、部活のバレーボールで痛めたことがある。
その頃は、そばはOKでも、うどんはダメだったのだとか。
うどんの重さでも、痛かった。
井森美幸さんは二十歳の頃、バイクの中型免許をとりに行って、痛めたらしい。
クラッチとブレーキが固くて、そうなったそうです。
その時は、物をちょっと持っただけで、激痛が走ったという。
さて、AさんやBさんの病気ですが、名前があります。
海外のニュースでは、こう呼ばれている。
「スマートフォン・サム ( Smartphone thumb )」
アメリカの臨床医療の拠点である、ミネソタ州のメイヨークリニック。
手の専門家、サンジーブ・カカー医師に聞いてみました。
「携帯電話などが原因で、20年前から、この手首の痛みを訴える人が増えているんです」
「彼らは、手首の周辺に炎症が起きています。動かすたびに、強い痛みが出てしまうんです」
「俗に、スマートフォンサムと呼んでいます」
体験談のAさんも、医師から、スマートフォンが原因だと指摘されました。
できるだけ控えるようにと、言われたそう。
街でスマホを使う人に聞いてみると、やっぱり、いました。
「手のひらのあたりから、腕にかけて、しびれたりとか、重だるかったりする」
「何時間もやってたら、痛くなって、触れないくらいになる」
この痛み、スマートフォンだけが原因ではありません。
体験談のBさんは、パソコンが原因だと考えられています。
さらには、ゲームが原因になることもあるのだとか。
こうした様々な電子機器の操作で起こる痛みが、通称「スマートフォンサム」と呼ばれているのだ。
でも、スマートフォンは分かるとして、サムって何だ?
サムとは、「親指」のこと。
「サム(Thumb)」。「Tom Thumb(親指トム)」とか言いますもんね。
あれ?
でも、痛いのって、親指ではなく、手首なのでは?
なぜ、手首の痛みなのに、親指という名前がついてるのでしょうか?
□ 親指と進化

どうして、親指が原因で、手首が痛くなっちゃうんでしょうね。
そこには、人間の進化が、深く関わっているらしいぞ。
2万体もの動物の骨を収蔵する、東京大学 総合研究博物館。
進化を学ぶには、うってつけの場所です。
解剖学の専門家、遠藤秀紀 教授に、お話を伺います。
遠藤先生は、動物の骨の形から その機能を読み解くエキスパートなのだ。
動物の親指は、どんな働きを持っているのでしょうか?
「動物の手の指というのはね、一番内側にあったり、一番外側にあったりすると、退化して無くなってしまったりとか、逆に、それが特別な役割を果たしたりする」
例えば、牛の分かれた蹄(ひづめ)。
実はこれ、薬指と中指なのだそう。
親指は必要がなくなり、消滅したとのこと。
パンダの指の骨も、変わってますね。

外側にある2本は、何なのでしょう?
実は、パンダが笹をつかむ時に、固定しやすいようにする、特殊な骨の出っ張りなのだとか。
その役割は、遠藤先生が世界で初めて、発見したんですよ。
ネコちゃんは、どうでしょう。
骨格標本を見ると、親指だけ、地面に触れずに、浮いてますねえ。

ネコの親指は、体重を支えたり地面を蹴ったりは、しないらしい。
いざ使う時は、5本目の武装のための指として、機能するのだとか。
そもそも、四足歩行する動物は、親指が大きいと、邪魔になってしまいます。
では、人間の親指は、どう進化したんでしょうね?
向かったのは、千葉市動物公園。
同じ霊長類である、お猿さんたちの親指と、比べてみましょう。
まずは、アフリカに生息するオナガザルの仲間、アビシニアコロブス。
つかみ方は、ちょっと、ぎこちないかな。
その理由は、親指にありました。
人間に比べ、小さい。
アビシニアコロブスは、木の上で暮らす猿。
手は何より、木にぶら下がるために、使われるんですね。
それに比べれば、物を器用に扱ったりする必要はなく、親指はあまり発達しませんでした。
一方、人間の親指は、長く大きく発達しています。

他の4本の指と向き合い、物をしっかりと、つかむ。
これは、人間だけが持つ、特別な機能なんですね。
この、物をつかむ能力のおかげで、私たちの祖先は、様々な道具を手にし、種としての繁栄を成し遂げることができたのです。
ところが、この進化をしたことで、人類が背負ってしまった宿命こそが、今回のテーマ「手首の痛み」らしいのだ。
□ スマートフォンサムの原因

さて、話を戻しましょう。
「スマートフォンサム」
「スマートフォン親指」
親指は、物をつかむためにある。
これがなぜ、手首の痛みに?
どんな動きが、負担になるのでしょうか?
スマホをよく使う人は、小指で下を支えて、親指で操作しますよね。
使うのは片手。
一方、片手は持つだけで、もう一方の手の人差し指で打つ人もいます。
実はこれで、大きな差が出るのだとか。
さあ、いよいよ、スマートフォンサムの原因が明らかに!
それは、これだ!
「フリック」とか「スワイプ」と呼ばれる、画面上で指を滑らせたり、はじいたりする、操作。

【フリック flick】
物を軽く打つこと。指先などで軽くはじくこと。「タッチパネルをフリックする」
【フリック入力】
タッチパネル式ディスプレーで、フリック操作によって文字を入力する方式。スマートホンやタブレット型端末の多くで採用される。
【スワイプ swipe】
スマートホンやタブレット型端末などの操作方法の一。マルチタッチ機能をもつタッチスクリーンを、指で触れたまま横に滑らせる動作のこと。
(大辞泉より)
片手でスマートフォンを持ち、親指で操作する。
これが、原因らしい。
親指を使った操作が、どれだけ負担が大きいのか、検証です。
協力してくれたのは、埼玉大学 大学院 基礎理学療法研究室。
人の運動と身体への負担を分析している、研究室です。
手首につながる筋肉に、筋電計を取り付けて、負担のかかり具合を測定しました。
まず調べたのは、ピアノの演奏。
ピアニストは、手首を痛める人が多い職業です。
筋電計を見ると、大きな反応が出ている。
かなりの負担が、かかっていますね。
では、スマホの操作では、どうなるか。
グラフが、強い反応を示しました。
親指が動くたびに、ピアノに匹敵する反応が出ています。
パソコンでは、どうなるでしょう?
親指を使った時に、大きな反応が。
さらに、親指で連打すると、すごいことになった。

これを毎日、長時間となると、かなり負担がかかりそうです。
こうした親指の動きが、どうして負担になるのか?
解剖学の遠藤先生に、聞いてみました。
「携帯電話をこんな風に(片手で)動かすことは、あり得ないことだったわけですけど」
「それまでだったら、そんなに使い込んでなかった、役割の低い、機能性の低い筋肉だったものを、ものすごくよく使うようになってるんです」
今まで使ってなかった筋肉を、酷使するようになったというわけ。
スタジオに、模型が運ばれてきました。
人間の優れているところは、物をつかむことができるところ。
実は、つかむことができるのは、「つかむ君」のおかげなんです。
つかむ君は、筋肉。
親指の付け根のあたりに、プックリしている部分がありますよね。
そこです。
つかむ君は、親指から伸びている腱を、つかんでるんですね。
そして、ぎゅ~っと引っ張る。
そう、腱を引っ張ることで、親指が曲がり、人間は物をつかむことができるのだ。
では、つかんだ物を、はなす動作は、どうでしょう。
実は、つかんだ物をはなす担当は、つかむ君ではありません。
その子がいるのは、ずっと下の方。
手首なんですね。
そう、手を開いて物をはなす時は、手首の下の筋肉を使っているんです。
この「はなす君」は、「つかむ君」に比べて、ほっそりしている。
もともと、つかむことが最優先で、はなす方には強い力が必要じゃなかったとのこと。
必要性が低かったので、ほっそりしてるってわけ。
はなす君は、使うべき場所(親指)と、すごく離れたところにいます。
ですから、親指から伸びている腱を、ちゃんと、はなす君が握れるように、途中に「鞘(さや)」がついてるんです。
普段、意識することはありませんが、物をはなすという動作は、けっこうたいへん。
はなす君は、一生懸命、働いているのだ。
スマホを片手で操作すると、どうなるか?
毎日毎日、何度も何度も、やることになるので、腱と鞘がこすれて、炎症が起きてしまいます。
これが、「腱鞘炎」ってわけ。
親指の酷使が、手首の痛みを引き起こしていた!
□ 手首の個性

実は、もう一つ、腱鞘炎になりやすい秘密があります。
向かったのは、JR東京総合病院。
手の専門家である、整形外科部長の 三浦俊樹 先生に、協力していただきました。
まずは、ガッテンボーイの宮森右京くんから。
超音波エコーで、手首の腱を検査します。
手を輪切りにした断面ですが、腱が見えますね。
その周りが、トンネルの鞘になります。
鞘の中を、2種類の腱が通ってますね。

亀井賢治くんは、どうでしょう。
どうも、宮森くんのとは、違うようですよ。
鞘の中に、筋のようなものが見えます。
真ん中部分に、2種類の腱を分ける、隔壁があるようだ。

三浦先生のお話。
「猿から発達してくる間で、ずいぶん進化して、変わってきてますから、人間の中でも、個人差があるんです」
「(亀井くんは)手を使いすぎると、痛くなる可能性は高いかもしれません」
実は、この違いが、腱鞘炎のなりやすさに関係するポイントだという。
手首の鞘のトンネルは、もともと狭く、空間にそれほど余裕はありません。
トンネルが2つに分かれると、さらに余裕がなくなって、腱とこすれやすくなり、炎症が起きやすくなると考えられています。
番組のスタッフ(音声さん)も調べてもらったのですが、2種類の腱のうち、1種類がありませんでした。
でも、もう1本の腱が代用してくれるので、特に問題はないとのこと。
9人、検査したのですが、みんな形はバラバラでした。
そのうち、4人が、腱鞘炎を起こしやすいタイプ。トンネルが2つの鞘を持っていました。

だから、人によっては、そんなに親指を使っていなくても、手首に炎症が起きやすくなることがあるんです。
では、どうやって、親指を守ればいいのでしょうか?
親指にやさしい生活法を、教えてもらいましょう。
□ 酒井直隆先生の解説
ここでスタジオに、専門家の先生が登場。
東京女子医科大学 非常勤講師の 酒井直隆 先生です。
診療していても、前は、ピアニストさん、美容師さん、調理師さんなど、手の特定の動作を繰り返す職業の人たちが、多かったのだそう。
それが最近は、職業にかかわらず、老若男女、いろんな人が病院に来るようになったといいます。
酒井先生が、すでに痛めているかどうかチェックする方法を、教えてくれました。
<手首の腱鞘炎 チェック法>
(1) 親指を曲げます。
(2) そして、他の4本で、親指を握りこむ。
(3) そのまま、小指側に曲げてください。
手首に強い痛みがあれば、腱鞘炎である可能性があります。
* 強い痛みが出たら、すぐに中止してください。

では、手首に異常を感じたら、どうすればいいのでしょうか?
スマホでは、フリック動作に頼らない方がよい。
親指だけでなく、人差し指も、使うようにしましょう。
親指の負担を、できるだけ減らしてください。
パソコンの場合は、手首の下にクッションを置くとよい。
そうすることで、腱の緊張が少なくてすみます。
負担を軽くできる。
筋電計でも、その効果が確認できました。
痛みがあっても、揉(も)まないでくださいね。
腱鞘炎は、揉むと悪化してしまう可能性があります。
休めてあげることが、一番。

痛みがひどい時は、病院へ。
整形外科を受診してください。
三浦先生によると、女性の場合、更年期になると、ホルモンのバランスの変化が原因で、腱鞘炎を引き起こしやすいと考えられているのだとか。
そして、もう一つ、この痛みを起こしやすいのが、子育て中のお母さんたち。
赤ちゃんの頭を支えるために、手を添えますよね。
この時、親指が大きく開いています。
これが、手首の筋肉に、大きな負担を与えてしまうんです。
抱っこの時なんかも、そう。
さらに、出産前後は、ホルモンバランスの変化で、炎症が治まりにくくなるため、炎症が長引いてしまう人も。
海外では、「スマートフォンサム」ならぬ、「マムズサム」なんて言い方も、あるそうですよ。

長引く場合は、医師に相談してくださいね。

スマホやパソコンなど、電子機器の操作で広がる、手首の痛み。
親指を適度に休ませることで、防げます。
指や目にも、休暇を!

ガッテン! ガッテン!
□ ビンやフタを開ける時

実は、他にも、親指の使い過ぎが原因で起こる、注意したい痛みがあります。
固いフタやビンを開ける時、親指の付け根が痛む人、けっこう多いみたいですよ。
痛みのもとは、親指の関節です。
親指の使い過ぎや老化で、関節がずれてしまうことが、あるんですね。

親指を曲げた時に、付け根のあたりが出っ張っている人は、関節のズレが始まっているかも。
(痛みがなければ、大丈夫だそうです)
症状を進行させないためにも、固いフタを開けたり、親指に強い力を入れる動作は、できる限り避けましょう。
痛みがひどくなったり、指が広がりづらいと感じるようになったら、早めに整形外科を受診してください。



次回は、この食材。
煮込んでも、味がしみない?
でも、ある粉で モミモミするだけで、大変身します。
「世界が注目! “こんにゃく”パワー」。
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