盲腸の手術を受けると、大腸がんのリスクが高まるって、ホント?
そもそも、いらないの? それとも、必要なの?
虫垂炎の意外な原因、そして、新しい発見。
カギは、腸内フローラと免疫細胞だった。
気をつけたいのは、3年半。
それ以降は、また別です。
便秘との意外な関係。
糞石とは?
解説:東邦大学医療センター 大森病院 島田長人 教授。
2017年3月8日放送の「ガッテン」より、「突然の激痛! 意外と知らない“盲腸”の真実」からのメモ書きです。

□ 盲腸と大腸がん

よく聞く病気、「盲腸」。
お腹に突然、激痛が襲う病気です。
なんでも、毎年、5万人以上が、手術で摘出しているのだとか。
実は、盲腸で人生を狂わされた人がいるんです。
聞くも涙、語るも涙の、物語。
この人は、紅白歌合戦の出場経験を持ち、映画監督としても活躍する、マルチタレント。
話は、20年以上前にさかのぼります。
その男性は、大学受験のために、故郷から上京した。
ところが、大事な入試の前夜、お腹が痛い。
ものすごく痛い。もう、我慢できません。
耐えがたい激痛に、男性は翌朝、病院に駆け込みました。
そこで下された診断は、「盲腸」。
そのまま入院し、緊急手術することに。
盲腸は無事、切除されたのですが、男性は試験を受けることができず、2浪が決定してしまったのでした。
なぜに、よりによって、この日なのか。
気の毒で仕方ない。
この男性こそ、今週のゲスト、ゴリさん(ガレッジセール)なのでした。
ゴリさんは、ゴリエちゃんで、紅白に出てましたよね。
「南の島のフリムン」など、監督経験もあり。
当時、夜中の1時か2時ぐらいから痛みが始まって、朝になっても、痛みが和らがなかったのだそう。
眠れないし、脂汗でビッショリ状態。
我慢できず、大家さんに、「病院に連れていってもらえませんか」と訴えたのだそう。
すると、「そこにママチャリあるから、自分で行きなさい」と言われたらしい。
仕方ないので、ゴリさんは、お腹を押さえながらママチャリに乗り、何とか病院へ。
今日の出演者では、ゴリさん、麻木久仁子さん、そして、志の輔さんが、盲腸なし。
切っちゃってます。
麻木さんは、7歳で手術したのだそう。
ちなみに、山根千佳さんは、盲腸あり。
観覧のみなさんも、全員、盲腸ありだった。
実は最近、盲腸の治療法とある病気の、意外な関係が見えてきたのだという。
つまり、盲腸を手術で治すか、それとも薬で治すか、それが大事な問題に。
309人の医師に盲腸の治療方針を聞いたところ、一番多かったのは、「患者さんの意思を尊重する」という答えでした。
「患者さんと一緒に、納得できる治療法を考えたい」ということですね。
ゴリさん、麻木さん、志の輔さんには申し訳ないけど、実は盲腸には 大切や役割があるらしい。
これまでは、「盲腸はいらないもの」とされてきました。
でも、どうも、違うようなのです。
向かったのは、台湾。
実は台湾には、日本にはない、面白い仕組みがあるんです。
診察の度に、健康保険カードを、医師に渡します。
すると、いつ、どこで、どんな治療を受けたか、記録されるのだ。
病院ごとに保存されたデータは、すべて政府の元に集められる。
台北市の中央健康保険署には、データを保存するサーバールームが。
なんでも、2000万人以上の情報が、保存されているのだとか。
実は最近、この膨大なデータから、常識を覆す事実が分かったのだという。
外科医の呉汐淇(ご しんき)さんのお話。
「私の医師としての経験の中で、盲腸を手術した人の中に、がんになる人が多いと気づいたんです」
大腸がんの患者を多く手術してきた、呉先生。
その中に、盲腸を手術した人がやけに多いと、不思議に思っていたそうな。
そこで、7万人を超える手術経験者のデータを、徹底的に分析。
すると、驚くべき事実が、見つかった。
盲腸手術の経験者と、そうでない人を比較すると、経験者の方が 大腸がんになる割合が多かったんです。
再び、呉先生の話。
「これまで、盲腸なんて どうでもよいものだと思っていたので、驚きました」
「ささいな病気と考えず、もっと注意深く見ていかなければならないと感じています」
今回の研究で分かったことは、これ。
「盲腸を手術すると、その後 3年ほどの間に、大腸がんにかかるリスクが 2.1倍」
しかし、これだけではありません。
後半では、盲腸を手術した人にも、安心の情報があります。
待っててね。
盲腸の手術と大腸がんに関係があるのでは?
そういう研究は、50年も前から、行われてきたのだそう。
中には「大腸がんが増える」というものもあれば、「関係ない」というものもあった。
議論が続いてきたんですね。
そして最近、台湾で、40万人近くを およそ14年間 調べた、これまでにない規模の研究が発表されたのでした。
それによると、「盲腸の手術の後 3年半の間だけ、大腸がんのリスクが、2.1倍」になると。
□ 虫垂炎の原因

昔から、不要なものと言われてきた盲腸ですが、人間以外の動物にもあるらしい。
なんでも、それが分かると、盲腸の不思議が解けてくるらしいですよ。
イギリスは、ノッティンガム。
ジュリアン・ヒギンスさんは、あるユニークな作品で知られるアーティストなのだ。
馬に、内臓や骨などを 直接 描いて、子ども向けに授業したりする。
というわけで、ヒギンスさんに、馬の盲腸を教えてもらいましたよ。
それが、ここ。
オレンジ色の部分。

こんなに大きいんです。
長さは、およそ 1メートル。
30リットルのものが入るらしい。
馬は、草食動物。
盲腸は、草を消化するのに必要なのだ。
馬の盲腸は分かりましたが、人間のはどうでしょうか。
どこにあって、どのくらいの大きさなんだろう?
盲腸は、大腸の一部。
小腸から大腸への移行部にある、袋状の部分です。

盲腸を切ると言いますが、実際に切るのは、「虫垂(ちゅうすい)」です。
「虫垂炎(ちゅうすいえん)」って言いますもんね。
虫垂が炎症を起こして、腫れて、猛烈な痛みが。
放置しておくと、破裂する危険まであるのだという。
そうなると、中にたまった膿(うみ)が飛び散ってしまいます。
虫垂炎は重症化すると、虫垂が破裂し、命に関わることも。
でも、どうして、虫垂炎になってしまうんだろう?
その意外な原因とは?
ところで、ある程度 年配の人は、子どもの頃、こういうこと言われませんでしたか?
「スイカの種を食べると、盲腸になるよ」
これって、本当なのでしょうか?
平塚胃腸病院の 佐藤健 先生に、聞いてみましょう。
「海外の報告も含めて、ほとんどありません」
「これは、迷信に近い俗説」とのこと。
先生によると、スイカを急いで食べると、お腹を冷やしてしまいがち。
それを戒めるために生まれた言い伝えではないか、と。
(諸説あります)
(それに、スイカの種を飲み込むことを推奨するものではありません)
しかし、あるものを飲み込むと、盲腸になることがあるのだという。
名古屋市にある、中部労災病院。
藤原玄 先生が教えてくれましたよ。
去年、盲腸患者さんを手術したところ、こんなものが出てきた。

長さはおよそ 1センチ。
いったい何だか、分かりますか?
実はこれ、「歯」らしい。
術後、患者さんに聞くと、幼い頃、誤って乳歯を飲み込んだ記憶があることが判明。
子どもの頃に飲み込んだ乳歯が、盲腸にとどまり続け、20年たって突然、虫垂を詰まらせたと考えられるのだとか。
藤原先生が過去の研究を調べてみると、歯以外にも、こんなものが…。
・魚の骨。
・義歯(入れ歯)。
いろんなものが、原因になるんですね。
藤原玄 先生のお話。
「飲み込んだ際に、消化液で消化されないようなものを食べても、発症することがあるということで」
「そういったものには、気をつけた方がいいのかなぁ、という風に思いました」
盲腸と虫垂の間は、直径3ミリ程度の穴で、つながってるんです。
その穴が何かで詰まると、虫垂炎の原因になることがある。
ほとんどの場合、便として流れていくんですが、ごくまれに、詰まってしまうことがあるんですね。
(といっても、すべての原因がこれというわけではありません)
(原因については、腸内感染説、血行感染説、アレルギー説など、諸説あって、決定的なものはないらしい)
□ 虫垂と免疫細胞

さて、話を戻しましょう。
なぜ、盲腸の手術をすると、大腸がんのリスクが上がっちゃうのでしょうか?
そもそも、虫垂は、何をしてるの?
盲腸の手術の現場。
アームでつかんでいるのが、虫垂です。

さらに、虫垂の断面が、こうなる。
その一部を拡大すると、たくさんのツブツブが。

実は、このツブツブ、「免疫細胞」なんです。
つまり、虫垂の中には、免疫細胞がたくさん詰まっていたのだ。
大腸の中には、たくさんの腸内細菌が住んでいます。
「腸内フローラ(腸内のお花畑)」という言葉は、何度か取り上げましたよね。
100兆個を超える腸内細菌が、絶妙なバランスで住んでいるのだという。
ただ、たまには、こんな状態になってしまうことも。
悪玉菌が多くなっちゃうのだ。
そんな時、頑張るのが、免疫細胞くん。
腸の中に 善玉菌が住みやすい環境を作るのを、手伝ってくれるんです。
そして、そんな免疫細胞くんが住みかとしているのが、虫垂なんですね。
ポイントは、今話題の「腸内フローラ」。
人間の体内には、100兆個以上の腸内細菌が住んでいます。
そのバランスが崩れてしまうと、影響は体全体に広がり、がんや生活習慣病などに関係すると考えらえている。
実は、この腸内フローラをよい状態に保つために、虫垂の免疫細胞が働いていること(手助けしている可能性)が、分かってきたんです。
台湾の研究が発表されたのは、2年前。
完全に解明されたわけではありませんが、こういう可能性があることが、分かり始めてきたんですね。
□ 島田長人先生の解説
ここでスタジオに、専門家の先生が登場。
東邦大学医療センター 大森病院の 島田長人 教授です。
外科医で、虫垂炎の手術や治療に詳しいスペシャリストだ。
虫垂の中に、免疫に働くリンパ組織があることは、昔から分かっていたらしい。
ただ、それが何の役割をしているのかは、よく分かってなかった。
ところが、台湾の報告などで、虫垂が免疫の関係で、腸内細菌に影響を及ぼしていることが分かってきたんですね。
それで、他のいろいろな病気との関係はどうなんだろう? という研究がスタートした。
今は、研究がスタートしたばかり。
これまでは、こう考えられてきました。
盲腸(虫垂)は、不要なもの、切った方が良い、手術をすれば安心。
これからは、こうなりそうです。
盲腸(虫垂)は、腸内を整える大切なもの、切ることにはメリットとデメットの両方がある、手術の後が肝心。
医学的に 手術した方が良いという状態も、もちろん、あります。
例えば、虫垂が破れて お腹に膿が広がっているような場合は、手術した方がいい。
その時は、お医者さんの方から、そう言ってくれるはずです。
「医学的に必要ですよ」と。
ここで取り上げているのは、「あえて取らなくてもいいような虫垂」。
薬で治るような虫垂は、無理して取らなくても良いと。
薬を使うと、「10」だった痛みが、翌日には「5」になるそうな。
(もちろん、薬が効いた場合です)
そして、さらに次の日には、その半分になると。
ただ、薬で散らした場合、再発の問題があるそうです。
薬で治療した場合、10~35%程度が再発するのだそう。
で、2回目、3回目と再発するようなら、手術の方が良いということに。
大腸がんのリスクが 2.1倍になるというデータですが、正確には、虫垂を切除して、1.5~3.5年の間は がんのリスクが上がるということ。
3.5年を過ぎて、それからは、虫垂を取っている人といない人の がんの発生率は変わりません。
それも原因がよく分かってないのですが、どうも虫垂を切除した最初の 3年半ぐらいの間だけ、ちょこっと上がるんですね。
その後は、変わらない。
人間の体には、時間の経過と共にバランスを戻す「適応」という働きがあるんです。
なので、もしかしたら、どこかの臓器とか何かが、元のバランスに戻す働きがあるかもしれないとのこと。
この辺は、これからの研究に期待です。
では、虫垂を切って 3年半、何に注意すればいいのでしょうか?
島田先生によると、「定期的な検診も含めて、検査をする」こと。
例えば、大腸がん検診を受ける。
これは、便に血液が含まれるか調べるもので、40歳以上に推奨されています。

虫垂は、免疫細胞の住みかだったんですね。
治療については、お医者さんとよく相談しましょう。

ガッテン! ガッテン!
□ 盲腸対策
<盲腸(虫垂炎)の対策 ポイントのおさらい>
盲腸(虫垂炎)は重症化すると、命に関わることもある病気です。
必ず、医師の指示する治療法に従ってください。
ただ、それほど重症でない場合は、手術か薬か、希望を聞かれることもあります。
<手術で治療した場合>
再発はありません。
ただ、その後 3年半、大腸がんのリスクが 2.1倍になるという研究があります。
<薬で治療した場合>
虫垂は残りますが、再発の可能性も(10~35%程度)。
どちらの場合も、大切なのは、その後の「健康的な食生活」だという。
大腸がんが心配な人は、「定期的な検診」もおすすめです。
□ 予防のための お役立ち情報

ここで再び、盲腸の意外な原因へ。
ここは、ガッテン名物、大調査だ!
協力してくれるのは、盲腸(虫垂炎)の経験がない 10名のみなさま。
検査してくれるのは、超音波検査歴 26年のベテラン、東邦大学医療センター 大森病院の 丸山憲一 先生です。
さて、何が見つかるかな?
問題なく進んでいたのですが、ある方の時、虫垂の中に白い影が。
おやおや、別の方にも、あったぞ。
10人中、4人に、白い影が見つかりました。
実は、お医者さんたちに聞いたところ、虫垂炎で詰まるものの ナンバーワンが分かったんです。
それは、「便(ウンチ)」。
「糞石(ふんせき)」という硬く固まった状態。
【糞石】
腸内にできる結石。多くは虫垂内に見られる。腸石。
(大辞林)
ここで再び、島田長人 先生が登場。
エコー写真を見せてくれました。
急性虫垂炎の超音波検査。

黄色いところが、糞石です。
糞石が詰まって、膿がたまった状態。
なんでも、検査中に 糞石がスコンと抜けて、大腸の方に戻ったそうです。
すると、膿が流れて、痛みもとれた。

ウンチが固まった糞石が問題だとすると、便秘も関係あるのだろうか?
便秘解消といえば、「食物繊維」ですよね。
実は、「食物繊維をたくさん摂ると、虫垂炎になりにくい」ことを示した研究があるんです。
<お腹にやさしい食生活 最新情報>
腸内細菌の研究で知られる、福田真嗣さん(株式会社メタジェン)。
雑誌「ネイチャー」に論文が掲載されるなど、国際的な注目を集めています。
今、1000人以上から便を集めて、分析。
腸内細菌を、健康維持や病気の予防に役立てようと、頑張っておられるのだ。
そんな福田さんの、お腹にやさしい食生活とは?
愛妻弁当には、野菜に果物、雑穀入りのご飯。
ひじきの煮物は、腸内細菌のエサになります。
実は、食物繊維の中でも、ひじきに含まれる水溶性食物繊維は、腸内細菌を元気に育てるのにも 役立つんです。
みそ汁は、微生物の力で作られたいろいろな栄養素を取り入れることができるので、体にとってもいいらしい。
味噌のほかに、ぬか漬けなどの発酵食品にも、効果が期待できるそうな。
長く続けることが重要なポイントだと、福田さんは言います。
長期間、食習慣として、続けられるものを摂るのが良い。
<水溶性食物繊維>
海藻類:昆布、ひじき、わかめなど。
野菜:ニンニク、オクラ、ゴボウなど。
<発酵食品>
漬物:ぬか漬け、キムチなど。
その他:納豆、みそ、ヨーグルトなど。
それぞれの好みに合わせて、長く続けてください。
□ 意外な早期発見法
いざ、盲腸になった時、何より大事なのは、早めに気づいて、病院へ行くことですよね。
そこで番組が、盲腸の経験者 373名にアンケートを実施。
どんな痛みだったか、聞いてみました。
その中で多かったのが、「痛みが移動した」という回答でした。
半分近くが、そうだったという。
<痛む場所>
(1) お腹全体。
(2) 右下腹部。
最初、お腹全体が痛み、その後、右下腹部が痛んだという人が、多かった。
実は、虫垂には、鈍い神経と鋭い神経、2つの神経が通ってるんです。
炎症が起きると、まず反応するのが、ちょっと鈍い神経。
なので、まず、どこか分からないけど、お腹が痛いと感じる。
その後、鋭い神経が、遅れて反応。
ここで初めて、虫垂が痛いと気づくのだ。
なので、痛みが移動するように感じるんですね。
痛みの移動は、盲腸が始まっているサインなんです。
早めの受診を、おススメします!



次回は、これ。
え? 声で分かるの?
大動脈瘤が!
「“声”で発見!? 突然死を招く大動脈の危機」。
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